【AFLフラッシュバック 80’s,90’s】第9回 シーズン100ゴールはもう達成不可能なのか?~ゴールハンターの今と昔~

【AFLフラッシュバック 80’s,90’s】第9回 シーズン100ゴールはもう達成不可能なのか?~ゴールハンターの今と昔~

2020年7月16日 0 投稿者: AFL Japan

AFLフラッシュバック 80’s,90’s

1980年代、90年代にオーストラリアで幼少期、青年期を過ごした筆者が、VFL/AFLの逸話をご紹介します。

第1回2017/10超人気の州リーグ’VFL’から、全国リーグの’AFL’へ
第2回2017/11AFLでは、2世、3世プレーヤーは当たり前!(前編)
第3回2018/1AFLでは、2世、3世プレーヤーは当たり前!(後編)
第4回2018/180年代~90年代、最強を誇ったPort Adelaideと、AFL参入のゴタゴタ
第5回2018/7キック力は、世界標準!NFLでも通用した、AFL選手達
第6回2019/9ミスターゲス不倫 Wayne CareyのFootball人生
第7回2020/4AFLのスタジアム~80年代、90年代のスタジアム探訪~
第8回2020/5メルボルンが悲嘆に暮れた日~1992年 AFL Grand Final~

オーストラリアンフットボールの魅力の一つは、『ゴール』を決めることだ。しかし、現代フットボールではチームの花形選手であり、ゴールを決めるフォワードの役割の変遷により、ゴールの数自体が減っている。1980年代~90年代に群雄割拠状態だったスーパーフォワード達から、現代のフォーワード選手まで、ゴールハンターの今と昔を紹介したい。

通算記録を塗り替えたフィジカル・モンスター ~Tony Lockett~

ヴィクトリア州の地方都市であるバララットで育ったTony Lockett(トニー・ロケット)は、1982年に16歳の若さでAFL(当時はVFL)のSt.Kildaにリクルートされる。3年目の18歳に年間77ゴールを挙げてクラブのエースへと成長すると、1987年、117ゴールを挙げて初のJohn Coleman Medal(リーグ得点王)と共に、Brownlow Medal(リーグMVP)もダブル受賞し、21歳の若さでリーグのスターへと駆け上がる。191cm, 123kgというめぐまれた体格を生かし、マッチアップするディフェンダーをものともしないマーク力でゴールを積み重ねていき、1991年にも127ゴールで2度目のJohn Coleman Medalに輝く。

そして、1994年暮れ、当時としては破格の3年契約、約100万ドルでSydney Swansへ移籍する。既に、St.Kildaに在籍していた12年間で898ゴールを挙げていたが、Swans移籍後も1996年と1998年にもJohn Coleman Medalに輝き、あっさりと通算1,000ゴールを突破する。そして、1999年、33歳となった年に、1920年代~30年代にCollingwoodで活躍したフォワード、Gordon Coventory(ゴードン・コベントリー)が持つVFL/AFL通算最多ゴール数(1299ゴール)を抜き、1300ゴールを達成。結局この年に引退するものの、通算1360ゴールは未だに破られておらず、文字通り生ける伝説となった。

圧倒的的なフィジカルで、近代フットボール史上最高のフォワードとなったTony Lockett(写真左・St.Kilda時代)も、優勝には縁がなく、最高の栄誉は1999年の通算1300ゴール達成の瞬間になるのかもしれない(写真右)

常勝軍団のゴールマシン~Jason Dunstall~

ラグビー・リーグが盛んなクイーンズランド州に生まれ育ったJason Dunstall (ジェイソン・ダンストール)は、1984年にQAFL(クイーンズランド州リーグ)の得点王に輝いた後、AFL(当時はVFL)のHawthorn Hawksにリクルートされる。加入後すぐに常勝軍団のフル・フォワードのレギュラー・ポジションを獲得すると、1986年には、77ゴールでクラブの得点王に輝く。そして、1988年には、132ゴール、1989年には138ゴールでJohn Coleman Medalに2年連続で輝くと共に、クラブの連覇に大きく貢献する。

身長は188cmと、フォワードとしてはやや物足りなかったものの、マッチアップするディフェンダーを一気に突き放す爆発的なリードからのマークと、正確無比なセットショット・ゴールで、ライバルのTony Lockett共にリーグを代表する点取り屋へと成長する。また、1992年には、レギュラーシーズンだけで139ゴールを挙げて3度目のJohn Coleman Medalに輝く。ファイナル初戦、West Coast Eagles相手に6ゴールを挙げて年間145ゴールとするものの、チーム自体は僅差で敗れてファイナル初戦で敗退する。もし、チームがそのままファイナルを勝ち進んでいれば、シーズン最多記録の150ゴールを破ることができた可能性があった程この年は絶好調だった。

その後、1993年,1995年,1996年にも年間100ゴール以上を達成し、1998年、14年に及んだAFLのキャリアに別れを告げる。通算1254ゴールは、VFL/AFL史上3位の記録となる。

チェストマーク中心の華のないプレースタイルは万人受けしなかったが、引退後は一転、軽妙なトークでテレビの解説者として活躍している

アデレードに突如現れたイケメンスター~Tony Modra~

1990年にVFLから全国リーグのAFLへ変わり、メルボルンに次ぐフットボールの聖地であるアデレードからも、Adelaide Crowsが新規(エクスパンション)チームとしてAFLに参戦する。当初そのエースとして期待されていたのは、SANFL(南オーストラリア州リーグ)で驚異的なペースでゴールを積み重ねていた、Scott Hodges(スコット・ホッジス)だったが、リーグレベルが上がったことも影響して中々結果を残せずにいた。そんな中、突如現れたのが23歳のフォワードのTony Modra(トニー・モドラ)だった。

1993年の2年目に怪我で欠場したScott Hodgesの代役としてフル・フォワードとして出場したRichmond Tigers戦でいきなり10ゴールを挙げると、結局そのままポジションを奪う形でシーズンを通してエースとして活躍し、129ゴールでチームの得点王となる。甘いルックスとゴール前での驚異的なジャンプ力を駆使したド派手なマークで、一躍アデレードの人気選手となり、その後もCrowsのエースとして君臨する。

1997年に初のJohn Coleman Medalに輝く(Grand Finalは怪我で惜しくも欠場。。)が、キャリアの晩年は、アデレードでのあまりの人気ぶりに逆に嫌気が刺したのか、1999年にFremantle Dockersに移籍し、引退までの3年間を西オーストラリア州で過ごすことになる。

1993年と1997年にマーク・オブ・ザ・イヤーに2度輝いた(写真左及び中央)Tony Modraだったが、そのプレースタイルから怪我も多く、Fremantle時代(写真右)も含めてキャリア通算ゴール数は588ゴールに留まった

現代フットボールにおけるフォワード選手の実情

1980年代~90年代、次々に登場したスーパー・フォワード達によるゴールの競演はAFLファンを熱狂させ、エンターテイメント性の向上に大きく貢献したことは間違いない。しかし、近年では年間100ゴールどころか、80ゴールに到達するケースも非常に稀になってきている。

※以下1980年代~90年代の15年間と、近年の15年間のJohn Coleman Medal 受賞者一覧を参照

ゴール数が減少した大きな原因は2つ程考えられる。まず1つ目は、フォーワードの選手に求められる役割が昔とは大きく変わったことだ。かつてのフォワード、とりわけチームのエースであるフル・フォワードの選手は、ゴール前でボールが来るのをただ『張って』いればよかった。つまり、ある程度の高身長でマーク力のある選手が重宝されていた一方で、走力やスタミナはそれ程重要ではなかった。

しかし、ここ20年程でAFL選手達はフルタイムのプロとなったことで各選手のフィジカル能力が上り、ポゼッション (ボールの奪取)の競争が非常に激しいものとなった。必然的に各チームはボールを奪う為に、今まで『サボっていた』フォワード達にも、ボール奪取への参加を求めるようになる。現に、現代のフォワード達は中盤まで下がるだけでなく、時にはゴールまでの距離が果てしなく遠い自陣まで戻りディフェンスをすることも珍しくない。つまり、ゴールさえ決めればいいいという役割から、自身もチームの一員としてボールを奪うというユーティリティ性が求められるようになったのだ。

2つ目の要因として、ボール奪取の競争激化から、ゴール前であっても密集状態が顕著になり、フォーワードがリードするスペースが極端に減ったことが挙げられる。リードするスペースがないということは、ゴール前でのマークが非常に困難なものとなり、結果セットショットゴールの機会も大きく減ることになる。その結果として、最近では、密集状態でも更にハイボールに対応できるラックの選手並みの高身長フォワードが重宝されるようになった。

これには、マッチアップする相手ディフェンス選手の高身長化にも起因している。それでも現実問題として、如何に200cm近い高身長であっても、密集状態でのゴール前でのマークは現代フットボールにおいては至難の業である。 

より高身長化した現代の『巨人フォワード』達。。左から、200cm のTom Lynch(Richmond Tigers) ,200cmのBen Brown (North Melbourne Kangaroos) , 198cmのTom Hawkins (Geelong Cats)

それでもファンは多くのゴールを期待している

2019年シーズン、Greater Western Sydney GiantsのJeremy Cameron(ジェレミー・キャメロン)が、序盤の6試合で30ゴールを挙げて『11年振りにシーズン100ゴールを達成か?』と期待された。結局、後半に失速し、ファイナル戦のゴール数も含めて75ゴールに留まったが、こういった話題が挙がること自体、やはりファンもゲームの華である『ゴール』を期待している証拠だろう。

また、ファンは、John Coleman Medalを4度受賞しているLance Franklinの通算1,000ゴール達成にも期待している。33歳となったSydney Swansのフォーワードにかかる期待は大きいものの、最近怪我続きであることを考慮すると、残り56ゴールは中々厳しいかもしれない。それでも達成できれば,1996年にGary Ablett Srが達成して以来の快挙となる(史上6人目)。

また、最近では、高身長の逆をいく『Small Foward』の台頭が目につく。2019年シーズン、Brisbane Lionsの181cmのフォワード、Charlie Cameron(チャーリー・キャメロン)は、57ゴール(レギュラー・シーズン54ゴール)を挙げて得点ランキング3位に輝いた。ハイ・ボールの競り合いを避け、こぼれ球を拾ってゴールを奪うプレー・スタイルは、現代フットボールを象徴する新しい『ゴールハンター』の姿なのかもしれない。

GWSのエース Jeremy Cameron(写真左), 通算944ゴールのLance Franklin(写真中央), Small Forwardの代表格 Brisbane LionsのJeremy Cameron(写真右)