【Skills of Australian Football】トーピード

【Skills of Australian Football】トーピード

2018年6月13日 0 投稿者: Oko Compton

近頃はめったに使われることがなくなったが、トーピードが登場すると【オー!とかワー!】とかいった感嘆が観客から上がる。のるかそるかになり得るキック方法ではあるものの、効果的に蹴ることができれば飛距離はかなりのもの。

1976年、ラウンド10、プリンセスパークで行われたカールトンFC対ノースメルボルンFCの試合を観戦した人の中で、あの瞬間を忘れる人はいないだろう。
チームがわずか1ポイント差で負けている中、ファイナルサイレンが鳴り響き、ゴール前65mでゴールを狙うことになったノースメルボルンのメルコム・ブライト。不可能かに見えたゴールだったが、ブライトはこの距離をとらえることができると感じたそうだ。「ドロップパントでゴールを決めれるかもしれないと思ったんだよ。」ブライトは自身の伝記の中でこう語る。しかしさらに考慮した結果ブライトは、得点を得る絶好のチャンスはトーピードだと思いいたった。正しく蹴ることができれば、「蹴るのが簡単な」ドロップパントよりさらに長い距離を飛ばせるということが証明される。このブライトのキックは、チャンネル7のマイケル・ウィリアムソンの中継と共にフットボールの伝説として記録されることとなる。

<参考動画>

「まだ試合は終わっていない!なんという修羅場だ! メルコム・ブライト...このキックはでかいぞ!マンモスキックだ...!!!」

ブライトのキックは後に、近隣のメルボルン大学の学生により測定が行われ、75.8mを飛んだことがわかった。ノースメルボルンは5点差で勝利し、ブライティー(ブライトのニックネーム)は、彼の驚くべきフットボール経歴のどの瞬間よりも「あのキック」について質問を受ける宿命になったのである。

この有名な出来事によりブライトは、トーピードの名人となったが、(彼の選手たちにとっては大変悔しいことに、ブライトがジロングFCのコーチ(1989~1994)となった後も、トーピードの名人として知られ続けることとなった。)その一方で、実行するには安定性に欠けるという理由から、トーピードキックは現代の試合から徐々に消え去りつつある。簡単に言うと、走っている時やプレッシャーを受ける時などは特に、単純なドロップパントを蹴るほうがより簡単で安全なのである。しかし、安全性をより重視することが、トーピードの本格的な消滅を意味しているのだろうか?

「トーピードは正しく成功させるためには安定性が無いし、たぶんより難しくなってきてるんじゃないかな、今ではもう練習することもないからね。」とセイントキルダFCのディフェンダー、ショーン・デンプスターは言う。「みんな正しく蹴る自信が無いし、ボールが確実にねらったところへ飛ぶかわからないからね。」プレーヤー達はおそらく慎重になっているのだろう、しかし、このどでかいトーピードは、少しずつ、じりじりと現代の試合に再び姿を現しはじめているのだ。

ボールを縦に持つドロップパントとは異なり、トーピードは、チェックサイド、またはバナナキックを蹴る時とは逆、すなわちブーツに向かって45度の角度でボールを持つのだ。

「トーピードを蹴る時のこつは強く蹴りすぎないことだね。」と、ウェストコーストイーグルズFCのディフェンダー、ボウ・ウォーターズは言う。「トープ(トーピード)で一番の選手たちはみんな素晴らしいタイミングでボールを蹴るんだ。彼らは必ずしも皆リーグ中最も長身の選手、最も強い選手であるわけじゃない、だけど、ゴルフでスイングするようななめらかなスイングで完璧にボールを蹴るんだよ。」

デンプスターは、「各チームは、(相手チームからかかる)プレッシャーを突破するためにベストな方法は何かと頭を悩ませるんだ。おそらくそれが、現在フットボールをする中で一番大変なことだからね。」と認める。これを念頭におくと、各チームがトーピードを蹴るスペシャリストを確保することによって、「プレッシャーを突破するための選択肢」が突如増えるというものだ。

ひょっとするとトーピードは、残り時間が少ない中、チームが1ゴールか2ゴールの差で負けている時までとっておきの技として残されているのかもしれない。そうなると一か八かの賭けになる。アイスホッケーがその良い例である、チームが残り時間数分の時点で負けている時、パックが方向を変えてしまうと相手チームにゴールのチャンスを与えてしまい、どのみち負けてしまうことは十分承知の上で、ゴールキーパーを抜き、アタッカーを一人増やして不利な状況下でもゴールを決める機会を作り出そうというものだ。

「(トーピードを使うことは)すごく攻撃的な動きになり得るんだ。」と、メルボルンFCのジャック・グライムスは言う。「試合終了に近づき、チームが、1ゴール差以下かそこらで負けている試合に勝とうとしている時に、ますます多くトーピードが登場することは間違いないよ。トープを真っすぐ真ん中に向かって蹴り、ボールをできる限り遠くへ飛ばすんだ、それからゴールのど真ん中を狙う(得点を得る)。」

「トーピードを10回中9回成功させることができれば、試合で活用する価値はあるね。」と言うのは、現在はヘッドコーチとしてAFLナショナルアカデミーを監督する、元アデレードクロウズFCのコーチ、ブレントン・サンダーソンである。「ただ、AFLチームの中でも多く練習が行われるスキルではない、このスキルに集中した習得メニューがないからね。トーピードを蹴る選手をまだ時々みかけるけど、失敗する確率が高すぎる、だからこのキックを見る機会は減っていくだろうね。試合のラストクウォーターに、フルバックからトーピードを蹴る選手を見ることはあるかもしれないけど、(前述で述べたアイスホッケーに似た要素のことである。)トーピードキックがれっきとした武器になり得ることを証明できるほど、常にこのキックを成功させることのできる選手は2~3人しかいないように思うよ。」

サンダーソンが言及したAFLのエリート選手は、ウェスタンブルドッグFCのマシュー・サックリング、ウェストコーストFCのシャノン・ハーン、ジロングFCのジミー・バーテルが含まれ、現に、彼らは皆、状況が許せば巨大なトーピードをぶっ飛ばす能力を持っているのである。しかし、近年活躍する選手の中でコリンウッドFCのアンソニー・ロッカよりも長い距離のトーピードを蹴ることができる選手はいないだろう。彼は、50mアークの外から定期的にどでかい爆弾キックを放っていた。「昔は遊びでトーピードを蹴っていたんだよ。」ロッカは言う。「今ではめったに見ないキックになってしまったけどね。」

 

トーピードの蹴り方


1 助走
アンソニー・ロッカは、合計6歩の助走をつける間、トーピードキックのボールの持ち方でボールを握り、ガイドダウンを開始する位置まで両手でボールを持ち上げていく。頭は動かさずそのままで、蹴る間、目は常にボールを見る。

2 ガイドダウン
ボールを蹴る足と同じ方の手で、蹴る方の足に沿いながら、握っているボールと同じ角度でボールを下方向へガイドする。バランスをとるため、ボールを持っていない方の手は、囲むように振り上げながら、ボールの前部から離していく。

3 構える(ブレイス)
少し長めの最後の一歩を踏み出している間にボールをリリースする(勢いが増すため)。素早く、力強く足が伸び、加速がつくよう、蹴る方の膝を曲る。ボールをガイドしていない方の手は、蹴る方の足の動きに合わせて振り上げる。

4 インパクト
軸脚は、身体から蹴る足へ勢いを伝達させるために構える。身体は前に動き、軸脚の上にくるようにする。蹴る方の足は、ボールが当たる位置へ向かって加速させる。頭は動かさずそのままの位置に保つ。

5 フォロースルー
蹴る方の足がボールに当たる位置まで加速した後も、ターゲットに向かって真っすぐ足を振り上げる。