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AFLにどっぷり13日間――メルボルン滞在記【前編:観戦・ファン文化編】

R246Lions所属の田淵は、2026年4月29日から5月11日まで、13日間メルボルンに滞在した。目的はAFLの名門アマチュアクラブ、Fitzroy Football Clubでプレーすることだった。

しかし実際に過ごしてみると、話はそれだけでは収まらなかった。「試合に出場する」という一言には、とても収まりきらない13日間のメルボルンでのAFL体験になったのだ。

観戦した試合は3試合。トレーニングは複数回に及んだ。自らプレーヤーとして出場した試合も2試合を数える。

さらに、その合間を縫ってSaint Kilda Saintsの施設見学、AFL本部でのミーティングやテレビ局のオフィスにも訪れた。滞在時間の大半をAFLに費やした13日間。まさに「どっぷり浸かった」という表現がふさわしい旅だった。

本稿は前後編でお届けする。前編のテーマは「観戦」と「ファン文化」だ。スタンドから見たAFLの世界を描く。後編では、実際にグラウンドに立ったプレーヤーとしての記録を綴る。

📷 [Fitzroyの一員として出場した試合前の様子]

到着翌日、Footscrayで再会した旧友

到着した水曜の夜は、そのままFitzroyの練習に合流した(詳細は後編に譲る)。翌木曜、移動疲れの抜けきらない体で街に出た。昼に落ち合ったのはRileyだ。東京ゴアナーズ(東京のAFLクラブ)でかつて対戦相手として共にプレーした仲間である。彼は現在、メルボルン西部のFootscrayに拠点を置いている。

案内されたのはWestern Bulldogsの練習拠点。地元強豪クラブの練習場所でキックの練習を行った。そのあとはFootscray名物のベトナム料理店へ。名物のバインミーを味わった。

Footscrayはベトナム系移民が多く暮らす多文化な街だ。AFLのクラブが地域コミュニティと不可分に結びついていることが、クラブの施設からも伝わってくる。試合の話をしながら公園を巡り、地元の空気そのものを吸い込む。これもまた、AFL文化を構成する一要素だろう。

📷 [Western Bulldogsの練習場で汗を流す]

観戦①:MCGで演じられたラウンド8の死闘――Collingwood対Hawthorn

その夜、足を運んだ先はMCG(Melbourne Cricket Ground)。10万人規模を誇るスタジアムだ。AFLファンにとっては、文字通りの聖地である。この日のカードはCollingwood対Hawthorn。2026年シーズン、ラウンド8にあたる一戦だった。

結果は93対93の同点だった。決着は試合終了間際にもつれ込んだ。CollingwoodのDarcy Mooreがマークを落とし、ハイタックルのフリーキックを与えてしまう。最後はHawthornのDylan Mooreがサイレン後に同点ゴールを突き刺した。この劇的な結末を呼び込んだのだ。

CollingwoodからはJamie Elliottが3ゴールを記録した。HawthornではNick Watsonが光った。第3クォーターの見事なアシストを含む活躍を見せている。観客数は76,632人。現地メディアはこの試合を「スリラー(thriller)」と評した。まさに、最後まで結末の読めない一戦だった。

ゴールが決まるたびに、スタンド全体が震えるような歓声が上がる。両チームのサポーターが隣り合わせで一喜一憂する光景も見られた。日本のスポーツ観戦とは、また異なる熱量である。何万人もの観客と呼吸を合わせるようにして、試合の行方を見守る。あの感覚は、実際にその場に立たなければ分からないものだと思う。

📷 [MCGスタンドからホストファミリーとの写真]

観戦②:Marvel Stadiumで目撃したSt Kildaの快勝

土曜日は特別な一日だった。昼にMonash University Clayton campusのグラウンドで、自らの初出場を果たしたのだ(詳しくは後編で触れる)。その足でそのままMarvel Stadiumへ向かった。Carlton対St Kildaを観戦するためである。

私はホストファミリーの祖父の影響で、長年St Kildaを応援している。試合結果は108対69。St Kildaの39点差での快勝に終わった。序盤こそCarltonが競り合った。しかし第3クォーター、St Kildaが8ゴールを叩き込む。以降は一方的な展開になった。

ラック役のRowan Marshallが圧巻だった。ヒットアウト10本を含む22disposal、3ゴールという内容だ。ブラウンロー投票3票を獲得する活躍を見せている。

屋根付きのMarvel Stadiumは、MCGとはまったく異なる雰囲気を持つ。密閉された空間に音と熱気がこもる。より近い距離感で選手のプレーを追うことができた。

応援するSt Kildaが快勝する試合を、自らグラウンドでプレーしたその日の夜に見届けた。忘れがたい記憶になった。同じAFLという競技を、昼は自らプレーする。そして夜はスタンドで声を張り上げる。この振れ幅こそ、今回の滞在の贅沢さを象徴していたように思う。

📷 [Marvel Stadium、St KildaのMitch Owens選手]

AFL Houseでの対話

滞在後半、向かったのは、Marvel Stadium内にあるAFL Houseだ。AFLの本部機能が置かれるこの場所で、AFL AsiaのSimon氏とのミーティングの機会を得た。

日頃はAFL Japan の日本代表部長として、日本代表の強化に携わっている。その立場から、アジアにおけるAFLの今後の発展について率直な意見交換ができた。今回の滞在の中でも、特に大きな意味を持つ時間だった。

AFLが国外からの来客をとても手厚く歓迎してくれる姿勢に感銘を受けた。

📷 [AFL House、サイモン氏とその同僚との写真]

メディアの力を実感したSBSオフィスツアー

翌日、Fitzroy Thirdsの監督Kaneとランチを共にした。同席したのは、クラブに引き入れてくれたJarrodだ。そのあとJarrodの案内で訪れたのが、オーストラリアの国営放送SBSのオフィスだった。多言語放送を担うSBSならではの制作設備を見学する機会に恵まれた。

そこで嬉しい報せを受けた。今回のメルボルン滞在とAFLへの取り組みが、SBS Japaneseの日本語放送で特集として取り上げられることになったのだ。日本語話者に向けてAFLの魅力を伝えるメディアが、オーストラリアに存在する。この事実自体が、この競技の国際的な広がりを物語っている。該当の放送はこちらから視聴できる。

日本で「フッティー」を盛り上げたい ー オーストラリアンフットボール日本代表選手・田淵裕樹さん

 

Collingwoodで出会ったAFLファミリー

滞在中、カフェやベーカリーで賑わうCollingwoodの街を何度か訪れた。ある日の午後には、Liam氏のもとを訪ねた。元R246 Lionsの選手で、この街のベーカリーで働いている。カフェで語らう時間を持った。

日本での生活を終えたのちも、当時のチームメイトとの交流は続いていると言う。その一言に、Australian footballがいかに人々を深く繋いでいるかを感じた。

また別の日には、Murray氏と知り合った。祖母が日本人で、”クォーター”にあたる青年だ。日本代表に力を貸したいと連絡があり、選出の可能性について語り合った。今回の滞在でも、印象深い出来事のひとつである。海を越えて、思いがけない場所に日本とAFLをつなぐ糸が伸びている。そんな発見があった。

📷 [Liam氏との写真、メルボルンはカフェ文化も発展している]

香港からの旅の仲間と過ごした夜

同じ週には、Toby氏ともディナーの時間を過ごした。Hong Kong Dragonsに所属している。彼もまた、メルボルンに暮らしながらAFLと関わり続ける一人だ。

日本、香港、そしてオーストラリア。アジア各地のAFLコミュニティが、メルボルンという一つの街で自然と交差していく。この競技を軸にした人のつながりの広さを、あらためて実感する夜となった。

観戦③:MCG会員ラウンジで見たラウンド9の一戦――Geelong対Collingwood

滞在最後の週末。自身2試合目の出場を終えた夜、再びMCGへ向かった(こちらも後編で詳しく触れる)。この日はMurray氏とともに、ラウンド9のGeelong対Collingwoodを観戦した。

結果はGeelong 122対Collingwood 68。54点差の大勝だった。序盤はGeelongが優勢に試合を進めた。第2クォーターでは拮抗する場面もあった。しかし後半に入ると、流れは一変する。ハーフタイム明けから7得点を無回答で重ねたのだ。第3クォーター終了時点で、32点差の優位を確立した。

Ollie Henryは4ゴールを量産した。Bailey SmithとMax Holmesの中盤コンビも光った。前半だけで合計30ボールタッチを記録している。200試合目の節目を迎えたTom Stewartは、安定したディフェンスでチームを支えた。

この一戦には83,166人が詰めかけた。Murray氏は家族がMCG会員だ。そのため、普段は立ち入ることのできない会員専用ラウンジから観戦させてもらうことができた。最初に訪れた木曜夜のパブリックスタンドとは、まったく異なる角度からのスタジアム体験だった。貴重な機会だったと言える。

熱狂に包まれたパブリックスタンド。そして、落ち着いた雰囲気の会員ラウンジ。どちらもAFL文化の一側面だ。この競技がオーストラリア社会のあらゆる層に根づいていることを、あらためて実感させられた。

📷 [MCG、Geelong戦の写真]

 


前編では、観戦者として、またAFLコミュニティの一員として過ごした時間を振り返った。後編では、いよいよグラウンドに立ったプレーヤーとしての体験をお届けする。Fitzroyでの練習の日々。そして、2試合の実戦の記録だ。

後編に続く